2022.12ミッケナナのX’mas Liveに来てくださった松尾潔さん。特にこの『Time Travel ~未来の君へ~』という曲への想いを語って頂き、その言葉が今も心に残ります。今回、クラウドファンディングプロジェクトで念願のリリースをしたいというお話しをしたところ、コメントを寄せて頂きました!
宮本美季の生歌唱を初めて体験したときの衝撃を忘れたことはない。
無論それ以前から、テレビ出演時のパフォーマンス、あるいは作品を通して、その実力は知っているつもりだった。ピッチ、リズム、タイム感、声の色づけといった、「うた」を構成する多種多様なスキルとテクニックを備えたミス・パーフェクト。多くの人たちが共有する彼女のパブリックイメージは、おそらくそういったものではないだろうか。
だが実際に生で聴いてみて、そんな先入観はあっさりと、そして鮮やかに更新されてしまった。宮本美季がいったん口を開いて歌いはじめると、その声のむこうには、彼女だけの音楽性、音楽体験、もっと言うなら人生観らしきものまで浮かび上がってくるのだ。その才能は非凡以外の何物でもない。ただ、同時にぼくは歯痒さも感じていた。これほどのボーカルの主には、それにふさわしい、名刺がわりとなるだけのオリジナル曲があって然るべきだろうと。
もどかしい気持ちが払拭されたのは、2022年暮れのこと。女性ミュージシャンだけで構成されたバンドと共にステージに立った彼女は、時節にあったホリデーソングやジャズスタンダードを超絶的な巧さで歌いこなす。圧巻だった。イメージのままの宮本美季がそこにいた。そして、会場の温度が最も上がったところで「ずっと大切にしてきた曲です」と前置きし、オリジナル曲を歌いはじめた。今度は大上段に構えることなく、やさしく語りかけるように。
それが「Time Travel」だった。ここでの宮本美季は、スーパーボーカリスト然とした振る舞いからいちばん遠いところにいる。歌いながら、歌の先にあるものを正確にとらえることに余念がない。そしてこの曲は、聴く者に瞬発的な反応を求めるようなあざとさからいちばん遠いところにある。「Time Travel」が流れる時空間のたおやかさ、うつくしさ。彼女が歌い終えたとき、ぼくは自分の両頬が濡れているのに気づいて狼狽したほどだ。
これぞライフ・ミュージック。そう言いきることに、いまのぼくは露ほどのためらいもない。
松尾 潔 (音楽プロデューサー/作家)